人や物の移動を大きく変えると呼ばれる、交通サービスの新たな潮流「MaaS(マース)」について解説していく。
「MaaS(マース)」とは、モビリティ・アズ・ア・サービスの訳。モビリティサービスといえば自動車の移動や運搬をスムーズに行うためのサービスのことだが、その中でも「MaaS(マース)」は、 情報通信技術(ICT)を活用し、複数の交通手段をシームレスに利用できる仕組みを指す。
「MaaS(マース)」では、レンタカーを始め、バス、鉄道、飛行機など、運営母体の異なる複数の交通機関をインターネット上でクラウド化し、1つのアプリで移動手段の検索・予約・決済まで済ませることができる。
従来の交通サービスでは、ユーザーは目的地までの経路を調べた後、それぞれの交通機関の時刻表・速さ・料金などを比較し、自分にとって最適な手段を選択しなければならなかった。さらに個別の窓口にて予約を行い、料金の支払いを行う手間もあった。「MaaS(マース)」なら、それらのプロセスをアプリ1つで完結できる。また、アプリを観光施設や医療機関と連携させれば、入場チケットの購入や、診察の予約などもまとめて行うことが可能だ。
「MaaS(マース)」のメリットは利便性の向上だけではない。リアルタイムで混雑状況を表示することで渋滞を避けられたり、コロナ禍で三密を避けたい人に、なるべく接触の少ない移動手段を提示することもできる。
また、「MaaS(マース)」のシステムを利用して収集したデータの活用法も注目されている。例えば田舎などの過疎地域では、日々の利用データを蓄積しておくことで、より無駄がなく、需要に合った時刻表の設計ができるだろう。さらにネットでの予約に応じて小型バスを運行させることも可能だ。
日本では「MaaS(マース)」はどれくらい広がっているのだろうか。スウェーデンの工科大学が発表した「MaaS」の統合度を「レベル0~4」の5段階で表した指標によれば、日本はまだレベル1【情報の統合】の段階だ。ちなみにレベル2は【予約・決済】、レベル3は【サービスの提供】、レベル4は【政策】の次元で統合が達成されている状態を示す。
日本ではネットで経路検索をすれば、ある程度、網羅的な交通手段の一覧が表示される。しかし予約・決済は個別に行わなければならないし、サービスも一部のパッケージ商品を除いて手続きは統合されていない。法の整備もまだまだ進んでいない状況だ。
しかし一部の企業では、「MaaS(マース)」社会の実現に向け、積極的に実証実験を行っている。「MaaS(マース)」が広がれば、レンタカーを初め、より多彩な移動手段に注目が集まっていくだろう。求められるのは、よりユーザーの需要に合った交通サービスの提供だ。